第3回「街並みの美学」トラベルスカラシップ 結果発表


【審査報告と講評】 大野秀敏 審査委員長

今年の「街並の美学」トラベルスカラッシップには、昨年より二点多い、43点の応募があり、力作が寄せられた。審査は、芦原会の有志14名によって2008年6月9日に都内で行われた。芦原会は、東大で芦原義信先生の教えを受けた者の集まりであるが、それに前年までの本賞の受賞者も加わるところがユニークである(今年は、都合もあり一名の参加であった)。本賞が歴史を積み重ねるに従って、会員の若返りが図れ、それが審査の価値体系にも反映される仕組みである。


【第3回「街並みの美学」トラベルスカラシップ 受賞者】 (受付番号順、敬称略)

■ No.09 横山翔大 (東京大学大学院) 「その雑居ビルの名は」
  研究旅行テーマ:断絶と横断  訪問先:南米諸国


【講評】
この計画は、東京都心に「雑居ビル」と作者が呼ぶ、商業、業務、住宅などの複合用途の大型建築の提案である。用途の複合性がそのまま外観に表現され、様々な隙間が取られてそれが動線や空中広場として利用される。これは東京のダイナミズムを凝集したような建築であり、スマシタたたずまいの隣の東京フォーラムに挑戦しているところが痛快である。一方、研究計画は応募案中唯一と言って良い明確な方法的思考をもった計画であった。世界の都市の様々な社会的分断がどう都市空間に反映しているかを観察するというものである


■ No.16 森川啓介 (首都大学東京大学院) 「霊岩島より」
  研究旅行テーマ:特異な都市構造を持つ都市での建築の使い方  訪問先:ヴェネチア


【講評】
中央区のなかでは、メディアへの露出が少ない霊岸島の再開発によって区の夜間人口増加を吸収しようという提案である。地域内の現況容積相当分を幹線道路上に計画した建築物に移し、街区内は空き地にしようという(細街路のパターンだけが地面に残るようである)趣向である。幹線道路上の建物は長く連続する壁状のメガストラクチャーであり、そのシルエットは山のように起伏がある。このような計画に至る論理は文章とグラフで説明されているが、それほど納得のゆくものではない。異論もあったが、なにより、提案された都市形態の不思議な魅力によって選ばれた。


■ No.25 桑木真嗣 (横浜国立大学大学院) 「屋根のない博物館」
  研究旅行テーマ:三日月港  訪問先:アテネ、ミコノス島、シロス島


【講評】
これは、瀬戸内の鞆町という名の漁村集落の、修景計画的視点をもった博物館計画である。町の中央にある小山の頂に居座る、小山のスケールと不釣り合いに大きな既存の博物館を、ランドスケープ的にデザインをした新たな施設で置き換えるというものである。博物館機能については展示を町中に分散して配置することを提案している。この提案は、本奨学金の街並という趣旨からすると外れているように見えるが、この提案は、日本の都市にとって、小さな山の景観上の重要性に着目している。研究計画では、世界の同様な港町の景観を対象として町と港の結びつきを調査するという。設計と研究が見事に結びついていて好感がもてた。