【講評】 大野秀敏 審査委員長
【第1回「街並みの美学」トラベルスカラシップ 受賞者】 (受付番号順、敬称略)
■ No.08 宇那木崇広 (千葉大学大学院) 「過密都市における環境インフラとしての建築」
研究旅行テーマ:サクラダファミリア建設現場における職人技能の構築・育成・継承の実態
訪問先:スペイン
【講評】
個別の建築の設計をする建築家にとって、実践として街並み形成に関わることは難しいのが現実である。そういうなかで、この提案は原宿に想定する小規模な建物を緑化することで積極的に都市に関わろうと言う提案であり、建築の可能性を示唆する優れた提案である。いまどき、壁面緑化、屋上緑化の提案は巷にあふれている。それらの提案は、通常の建物に植物による外装を施しただけか、そうでなければ地形を模した形態に二分される。地形を模すとどうしても山になり、山を街に置くとオブジェクトになり町並みの連続性を破壊してしまう。この提案は漏斗型の形態にすることによって、この問題を見事に回避している。ありそうでなかった新鮮で現代的な提案である。芦原先生の街角に小広場を設けたソニービルを思い起こさせる。
■ No.10 北雄介 (京都大学大学院) 「風化する企業/侵入する地域」
研究旅行テーマ:複雑系としての都市のダイナミックス 訪問先:ベトナム
【講評】
都市デザインの課題は、時代とともに変化する。この提案の関心は、巨大ショッピングセンターの出現によって大きく構造を変えている地方都市や大都市の郊外にある。問題は古い個人商店の商売が上がったりになるだけでなく、経営的にうまみがないとなるとサッと引き上げてしまうという行動パターンにある。取り残された地域は途方にくれてしまう。
これは芦原先生の時代にはなかった問題であり、もっとも現在的な問題である。この提案は、撤退した巨大ショッピングセンターに建築的な街路を挿入することで巨大施設を再編集し、地域のニーズに応える新たな核として再生し、更に成長発展させてゆくものである。リアリティはともかく、現代の都市問題を捉えるまなざしの鋭さとそれを建築的提案に結びつけた能力に感心した。
■ No.15 金野千恵 (東京工業大学大学院) 「rhombi hill」
研究旅行テーマ:都市を形成する要素 訪問先:ニューヨーク
【講評】
21世紀の都市に、一番大きな問題を突きつけるのは、20世紀に各国で発展した郊外住宅地のありかたであろう。rhombi hill(菱形 の丘の意)と題する、この作品は、どこにもありふれたひな壇造成の上 に築かれた郊外風景に異を唱え、等高線に対して斜交する菱形の街区を提案する。すると全ての道は坂道になり丘のもっていた地霊が保存されるという企みである。都市の性格は、個々の建築の形態も影響するが、街区の形状によって大凡が決まってしまう。提案では多様な施設が提案されており(豊かな変化ができて当たり前)、普通の住宅だけでできた街区を扱った方がもっと訴求力があったかもしれない。しかし、極めて本質をついた前向きな批評性のある優れた提案であることには変わりない。
芦原先生は地中海の島々の斜面住宅の魅力を力説された。先生も、この作者と同じように地形の豊かさを無視して平気な日本の風景づくりに対して憂慮されてのことだったと想像される。