『建築家のメモⅡ-メモが語る歴史の未来-』(丸善出版)にて、衆参両院正玄関前噴泉(設計:芦原建築設計研究所/1990年)の設計雑記が掲載されました。
噴泉設計雜記
このメモは、芦原義信が議会開設百年記念として、衆議院・参議院の正玄関前に計画したものである。
建築と環境にかかる環境造形の一種であり、空間を内包していないが、安全性、機能面からもあくまで建築の設計手法を用いてデザインした。百年記念と噴泉ということからは、渾渾と絶え間なく湧き上がる水が滔滔と流れ、滝状に落ちる様子をイメージしたと思う。これからの百年、あるいはそれ以上の年月へ対して静(造形)と滝のような落水の動を以って象徴とすることはどうだろうかとも考えてた。議事堂の建築からはシンメトリー、正面性、方形などが感じ取ることができ、配置については、両院玄関正面ということであったので、玄関の軸線上の設置を前提に、左右の軸線、鳥瞰的角度、眼の高さ等がチェックポイントになった。落水時と滝が止まっているときの両方の状態を想定し、正四角形あるいは円形ならば裏表のないものになるので、適した造形と考えた。水の落下際の形状、流量との関係、夜間照明などなど、分からないことだらけであったので、噴泉工事を担当した川村噴水の鎌倉の敷地内に実物大模型をセットし、芦原をはじめ関係者全員で実験を行い、一つ一つ問題をクリアしていった。いよいよ地上の造形が顔を見せ始めたその場に、芦原自身立ち会い、工事関係者を労うかたわら、竣工に向かって無事にこぎつくように、細心の注意で望むことを共に確認したことをよく思い出すことがある。
文/井上一(芦原建築設計研究所)